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2024.05.28

山口・山野が日本地球惑星科学連合2024年大会にて招待講演

 英語にて、「Prehistoric settlement of a remote atoll and tropical cyclones, Pukapuka, Northern Cook Islands」という題名のもと、招待講演を行いました。    

 予稿は、次の通りです。


キーワード:環礁、ジオ考古学、熱帯サイクロン、タロイモの天水田農耕、北部クック諸島、ポリネシア

 太平洋には170以上の環礁が点在する。未固結の石灰質砂礫からなる低平な陸地の生物相は限られており、しかも自然豊かな火山起源の高い島から距離を隔てた離島が多い。しかし、厳しい陸上生態系にもかかわらず、東ミクロネシアの環礁では2000年間、ポリネシアの環礁でも少なくとも600年間の人間居住史が知られており、いずれも環礁島民の生存はタロイモの水耕栽培によって支えられてきたことが分かっている。ポリネシアの北部クック諸島プカプカはそうしたリモート環礁の1つで、サモアとタヒチのあいだに位置する。プカプカ環礁は南太平洋収束帯(SPCZ)の東縁に位置するため、特にエルニーニョの年に熱帯サイクロンが接近する傾向にあり、タロイモ天水田が越波で冠水する被害に時おり見舞われてきた。それゆえ、19世紀以前の先史期にも、熱帯サイクロンによって長期にわたる食料生産の停滞が生じたと容易に想定できる。そこで本発表では、これまで現地で実施してきたジオ考古学的調査の成果を、先史人間居住とタロイモ天水田の開発、そして熱帯サイクロン被害と復興という相互に関連する視点から議論する。

 まず初めに、州島堆積物の分析にもとづいて地形形成史を考察するとともに、リーフ上のストームロックから採取したサンゴ片の分析から熱帯サイクロンの時期推定を行う。次に、タロイモ天水田を取り囲む廃土堤の発掘調査を紹介する。リモート環礁では波浪による堆積作用を除くと、火山灰の降下や河川堆積を期待できず、古い文化層は後の時代の人間活動に頻繁に攪乱されやすい。それゆえ考古学者にとっては、炭化物を含む出土遺物の編年的位置付けが難しいフィールドである。しかし、天水田の構築時に人為的に積み上げられた砂礫の廃土堤下に良好な層位関係を確認でき、信頼性の高い年代試料を得ることができた。そこで、熱帯サイクロンにかかわる地球科学的情報とタロイモ天水田の構築にかかわる考古学的情報の対応関係を最後に議論する。その際、ライン諸島パルミラ環礁のサンゴ試料のδ18Oから復元されたENSO活動の古気候情報(Cobb, et al. 2003))を援用する。

 なお、これまでの分析結果の概要は次のとおりである。(1) 堆積物サンプルの較正年代から、州島形成が5500年前ごろに始まり、2000年前には主体部が形成されていたことが分かっている。(2)6個のストームロックから得た9つの較正年代は少なくとも5回の熱帯サイクロンに由来する可能性がある。(3)考古学的発掘によって、いくつかの廃土堤が複数回にわたって積み上げられたことが明らかになった。熱帯サイクロン後の復興の痕跡かもしれない。


 スライドは、次の通りです。

240528JpGU_Prehistoric settlement of a remote atoll and tropical cyclones_for web.pdf


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