研究内容

目的

 本研究の目的は、クック諸島北部離島のプカプカ環礁に焦点を当て、通時的視点に立ち、極リモート環礁に生きる人びとがいかにその脆弱性・被傷性に対応してきたかを、学際的手法によって実証的に明らかにすることにある。プカプカ環礁は3州島から成り、北のワレを主島とし、南東にモトゥ・コー、南西にモトゥ・コタワを擁している。人口は約450人(2019年時点)で、主島ワレには3村の居住域が所在しており、各村はワレの北部地域モトゥ・ウタ、州島モトゥ・コー、州島モトゥ・コタワをそれぞれ資源保護区(motu)としている。資源保護区に関しては毎年、各村から選出される島評議会(Island Council)のメンバーと、伝統的権威者会議(Kau Wowolo)が協議の上、解禁・閉鎖期間や、資源利活用・管理の方法を定めている。我々は、この資源保護区の実践に端的な例をみるように、そもそも人間居住には過酷な極リモート環礁の住民が慎重かつ緻密に生存環境を確保することを通じて、生活世界の安定を図っているという見地に立つ。その過程を、環境機能分化と環境限界という概念のセットで特徴付けたい。


 より具体的には、環境機能分化とは、環境を構成するある空間を特定の生活資源の獲得の場と位置付けて涵養する過程を意味するものとし、環境限界とは、当該環境における生活資源の獲得の限界を意味するものとする。プカプカの住民は、環礁を構成する個々の州島を、立地と特性を見極めて特定の生活資源の獲得の場として涵養したうえで利活用・管理しており、その結果州島それぞれは生活世界の全体像を支える個別の機能を分け持つに至っている。加えて、20世紀初頭のニュージーランドによる植民地期以降には、環礁外への還流的人口移動(circulation)が恒常化したことを通じて、移動先のクック諸島ラロトンガ島、ニュージーランド、オーストラリアも、プカプカの住民にとって生活資源を獲得する場として位置付けられるようになったと捉えられる。すなわち、住民は環境機能分化およびその対象空間の拡張により、環境限界を引き上げ続けることで、生存の可能性を高めてきていると捉えられるのである。視点を変えれば、環境機能分化と環境限界という概念の採用は、この環礁社会を特徴づける恒常的な動態性を解明するために他ならない。


 このことを念頭に、プカプカの住民による生活世界の構築の実態を明らかにするために、①社会人類学、②歴史人類学、③考古学・地理学という、異なる時間幅を扱う複数の調査手法を採用し、フィールドでの協働を核とする実証的研究を行う。